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大阪地方裁判所 平成4年(ヨ)769号 決定 1992年10月29日

主文

一  本件申立てを却下する。

二  申立費用は債権者の負担とする。

理由

第一  申立て

一  申立ての趣旨

1  債務者は、その所属する組合員又は第三者をして、債権者の取引先(親会社などの関係会社を含む)に対し、債権者との取引を行わないこと若しくは債権者との取引を中止することを要求し、又は右と同様の趣旨を記載した書面を持参又は送付させるなどして、債権者の営業を妨害してはならない。

2  申立費用は債務者の負担とする。

二  申立ての趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  事案の概要

本件は、債権者が、債務者の役員や組合員の行った債権者の取引先等に対する取引停止の要求が債権者の営業権を侵害すると主張して、申立ての趣旨記載の営業妨害禁止の仮処分命令を求めた事案である。

一  前提となる事実関係

1  債権者は、昭和五九年七月二日に個人経営の船場池田商店を改組して設立された資本金五〇〇万円の株式会社であり、主として社員食堂、レストラン、一般食堂に業務用の食肉や魚介類の冷凍食品を販売している。債権者においては、役員三名及び従業員六名が常時顧客の注文に応じて食肉を加工したりしたうえ、食肉や魚介類を配達するなどの業務に従事している。(争いがない事実及び<書証番号略>)

2  債務者は、大阪市西成区の労働者を中心に組織されている労働組合であって、債権者の従業員三名が加入し、債務者船場池田分会を組織している(争いがない事実及び<書証番号略>)。

3  債務者船場池田分会は、昭和六〇年二月に結成されたが、その後同年年末一時金の要求について組合員の腕章着用就労とこれに対する債権者の就労拒否に端を発し、債権者と債務者との間で多数の労使紛争が発生し、債務者は、大阪府地方労働委員会に対し、①昭和六〇年(不)第六九号事件(組合員の腕章着用就労に対する就労拒否等)、②昭和六一年(不)第二二号事件(組合員に対する残業拒否等)、③昭和六一年(不)第五五号事件(組合員に対する暴力事件と支配介入)、④昭和六一年(不)第六二号事件(就業規則の制定と団体交渉)、⑤昭和六二年(不)第三号事件(組合員に対する遠方への配送指示等)、⑥昭和六二年(不)第五二号事件(ストに対する交通費のカット等)、⑦昭和六二年(不)第七八号事件(定期代の不支給等)などの救済申立てをなした(争いがない)。そして、右①ないし⑦の救済申立事件につき、大阪府地方労働委員会は、その一部を認めて救済命令を発したところ、債権者は、これを不服として、中央労働委員会に再審査の申立てを行い、債務者も棄却部分につき再審査の申立てを行い、現在も審理中である(争いがない事実、<書証番号略>)。

二  債権者の主張

債務者の役員や組合員は、債権者の取引先であるみどりフードサービス株式会社(以下「みどりフードサービス」という。)の関連会社である株式会社三和銀行(以下「三和銀行」という。)本店及び同行信濃橋支店、債権者の取引先である萬興業株式会社(以下「萬興業」という。)大阪支店及びその親会社である株式会社三菱銀行(以下「三菱銀行」という。)大阪支店、債権者の取引先である大阪魚国株式会社(以下「大阪魚国」という。)本店並びに債権者の取引先である永楽興業株式会社(以下「永楽興業」という。)の親会社である農林中央金庫(以下「農林中金」という。)大阪支店にそれぞれ押しかけ、労働組合の集団の威力を誇示したうえ、債権者との取引停止を求める申入書を交付し、「債権者が大阪府地方労働委員会から不当労働行為を行ったと認定されたにもかかわらず、これを遵守しない反社会的な企業であるので、債権者からの食肉納入の取引を停止するように」強く要求し、その要求に従わない場合には、右取引先等に対し、面談強要または実力による業務妨害という実力行使があり得ることを示唆して心理的圧迫を加えるなど、債権者との取引を断念させることを狙った違法な組合活動を行い(労働者は、労働契約上使用者の利益を配慮すべき誠実義務を負っているところ、取引先等に製品のボイコットを働きかける行為は右誠実義務に違反することになり、労働組合の役員もこの行為を指導すれば不法行為の問題を生じるのであって、債務者の役員や組合員の右行為は、債権者の営業妨害を目的とした違法な組合活動である。)、その結果、債権者とみどりフードサービス、萬興業及び大阪魚国との間の食肉等の取引が停止となり、債権者は、多額の損害を被った。

以上のとおり、債務者の役員や組合員の右行為は、債権者の営業権を侵害するものであって、将来においても債務者の役員や組合員が右と同様の営業権の侵害行為をなすおそれがあるので、債権者は、債務者に対し、営業権に基づき、申立ての趣旨記載の営業妨害禁止の仮処分命令を求める。

三  債務者の主張

債務者の役員及び組合員が債権者主張の各会社を訪問し、平穏に債権者に対する指導とそれに応じない場合に債権者との取引の停止を含む毅然とした対応をするように申入れたことはあるが、債権者との取引の停止を強要するような営業妨害行為をしたことはない。また労働委員会において不当労働行為を行ったと認定された業者について、公共団体との取引が続いている場合に、労働組合が公共団体に対し、その旨を申告して取引停止等を含む厳しい対応を求めること自体何ら違法視されることはなく、この理は民間企業についても何ら変わりはない。つまり、違法な手段を用いない限り、労働組合は、不当労働行為を止めさせるため、取引先等に対して取引停止を要請することも本来自由に行うことができるというべきである。

四  争点

債務者の役員や組合員が債権者の取引先等に赴き、債権者との取引の停止を求めることが債権者の営業権を侵害する違法な組合活動であるとして、その差止めを求めることができるか。

第三  争点に対する判断

一  三和銀行関係について

1  本件疎明資料(<書証番号略>)によると、次の事実が認められる。

(一) 債権者は、昭和五四年ころから三和銀行の複利厚生施設等を経営しているみどりフードサービスと食肉の取引を継続し、平成三年度の売上総額は金一四五〇万円程度であった。

(二) 債務者の書記長野田保(以下「野田書記長」という。)、債権者の従業員で、債務者の組合員である大久保康彦(以下「大久保」という。)ほか二名は、平成三年一二月二七日、大阪市中央区伏見町に所在する三和銀行本店に赴き、同店業務本部支店部お客さまセンターの有北均調査役(以下「有北調査役」という。)に対し、申入書(<書証番号略>)及び大阪府地方労働委員会の命令書を交付したうえ、「三和銀行信濃橋支店と取引のある債権者は、大阪地労委が不当労働行為に行ったと認定して救済命令を出したのにこれを遵守しない。公共性のある銀行がこのような反社会的な企業に対しては毅然たる態度を示すべきではないか。三和銀行の行員寮のレストランに債権者が肉を納入している件についても一度調査して善処してもらいたい。まず債権者を強力に指導してもらいたい。それでも態度が改まらなければ肉の発注を中止することも考えていただきたい。」との申入れをした。そして、野田書記長は、債務者の委員長である福田徹矢(以下「福田委員長」という。)に電話で右申入れに対する回答をするように要請し、野田書記長ら四名は退席した。その後有北調査役は、三和銀行信濃橋支店の田口誠次長(以下「田口次長」という。)に右事情を知らせ、後日福田委員長に電話をするように指示した。

(三) 田口次長は、平成四年一月七日ころ、福田委員長に電話をして、「債権者にも言い分があるようです。」などと言って債権者との取引停止をしぶったところ、福田委員長は、「債権者が不当労働行為を行って救済命令も遵守しない反社会的な企業である。」などと述べて債権者との取引について再考を求めた。

(四) 福田委員長、大久保、債権者の従業員で、債務者の組合員である小畑譲二(以下「小畑」という。)及び同田中豊彦(以下「田中」という。)の四名は、平成四年二月二四日、三和銀行信濃橋支店に赴き、田口次長らと面談し、田口次長が「債権者にもいろいろと言い分があるようで、これは労使間で解決してもらう問題だと思います。」と述べたところ、福田委員長は、「不当労働行為を行ったと認められた反社会的企業である債権者に対し、銀行として毅然とした姿勢を示し、債権者に不当労働行為を止めるように指導してくれ。そのうえで、債権者の対応によって銀行取引や関連会社の食肉の納入取引の停止を検討してもらいたい。銀行は暴力団に融資しているとマスコミに叩かれると、銀行業界挙げて大騒ぎをしている。債権者は、公的に法違反をしていることが認定されているが、これはどう考えるのか。」などと述べた。これに対し、田口次長が明確な回答をしなかったため、大久保が「あいまいなごまかしはせんとってくれ。」と言い、また福田委員長は、「もう一度ちゃんと検討しておいて下さい。ちゃんとした話をしてくれなければまた来ざるを得ない。」と述べて、福田委員長ほか三名はその場を退席した。

(五) その後みどりフードサービスは、平成四年二月二八日から、債権者との食肉の取引を停止した。なお債権者と三和銀行信濃橋支店との銀行取引は継続している。

2  債権者の代表者である池田義夫及び債権者の取締役である池田光蔵は、平成四年二月二四日、福田委員長が田口次長に対し、「三和銀行は債権者と銀行取引をやめよ。三和銀行は債権者から肉を購入するな。」「反社会的企業と暴力団社会は同じ話である。銀行は暴力団との取引についてマスコミに騒がれているやないか。マスコミに騒がれたらすぐ手を引くやないか。同じことやのに、なぜ反社会的企業について取引するんや。取引を止めよ。」などと言い、また大久保が田口次長に対し、「言うこと聞かなんだら何回でも来るで。おたくが知らぬ存ぜぬの逃げ腰の態度やったら何回でも来るで。」と言ったと供述する。しかし、池田義夫及び池田光蔵の右各供述は、同年二月二四日及び同月二六日、右両名が田口次長らから事情を聞いた内容に基づく伝聞供述であって、<書証番号略>によると、池田義夫及び池田光蔵は、右両日、田口次長らから福田委員長ら四名が訪問した時の状況を聴取しているが、福田委員長や他の組合員がどのような言動をしたかにつき、正確に聴取しようとした形跡はなく、従って、田口次長らも福田委員長らの言動を要約して述べたにすぎないというべきであるから、福田委員長や大久保が田口次長らに対し、池田義夫や池田光蔵が供述した内容のとおり述べたとは直ちに認められない。従って、池田義夫や池田光蔵の各供述はにわかに信用することができない。

二  三菱銀行関係について

本件疎明資料(<書証番号略>)によると、次の事実が認められる。

1  債権者は、昭和五四年ころから、三菱銀行西支店内にある行員用レストラン「大阪菱友クラブ」を経営する三菱銀行の関連子会社である萬興業と食肉の取引を行い、平成三年度の売上総額は金三七〇万円程度であった。

2  野田書記長、大久保ほか二名は、平成三年一二日二七日、大阪市北区堂島浜所在の三菱銀行大阪支店に赴き、萬興業の取締役で、同社大阪支店長である中下進(以下「中下支店長」という。)と面談して申入書(<書証番号略>と同じもの)を交付し、「債権者は、労働組合潰しの不当労働行為をしていると地労委で認定されて救済命令が出されたにもかかわらず、これを遵守しない。公共性のある銀行はこのような法に違法する企業との取引については慎重であるべきで、債権者を指導してもらいたい。債権者の姿勢によっては肉の発注も考え直して頂きたい。」などと申し入れ、福田委員長に後日電話で回答するように要請して、中下支店長と別れた。

3  その結果、萬興業は、平成四年一月以降債権者との食肉の取引を停止し、また同月中旬ころ、福田委員長に対し、債権者への食肉の発注を停止したことを電話で回答した。

三  大阪魚国関係について

1  本件疎明資料(<書証番号略>)によると、次の事実が認められる。

(一) 債権者は、二十数年来阿倍野近鉄百貨店内にあるレストラン「アトランタ」や同百貨店の社員食堂等を経営する大阪魚国と食肉の取引をし、平成三年度の売上総額が約二九〇〇万円であった。

(二) 福田委員長、小畑、大久保及び田中の四名は、平成四年二月二四日、大阪市中央区伏見町所在の大阪魚国の本店に赴き、同社の食品部長である上田らと面談し、福田委員長が債権者との労使紛争を説明した後、「債権者に対して厳しい姿勢で組合潰しを止めるように指導して頂きたい。そのうえで、債権者の対応によっては取引停止のことも考えて頂きたい。」などと申し入れ、これに対し、上田部長は、「現場で直接取引をしているので、現場の責任者にこの申入れを伝え、検討するように言う。」と述べたので、福田委員長ら四名は退席した。

(三) 福田委員長ら右四名は、同年三月二六日、大阪魚国の本店に赴き、上田部長との面談を求めたが不在であり、同社総務部の者から、「債権者のことでしたら、四月二〇日までで取引が終わるよう話をしています。」と言われ、福田委員長ら四名は直ぐに同社本店から引き上げた。

(四) その結果、大阪魚国は、平成四年四月二一日から債権者との食肉の納入取引を停止した。

2  池田義夫及び池田光蔵は、債務者の役員や組合員が最初に大阪魚国に赴いたのは平成三年一二月二七日と述べるが、その内容は伝聞に基づくものであり、また福田徹矢は、平成四年二月二四日が最初であると述べていることに照らし、福田委員長ら四名が最初に大阪魚国に赴いた日は平成四年二月二四日と認められる。

また池田義夫は、報告書(<書証番号略>)において、平成四年三月二七日、大阪魚国が経営するレストラン「アトランタ」の藤本料理長から、「三月二六日の押しかけでは、本社食品部の上田部長及び松田課長の両名とも留守であったため、組合員らは、『それなら社長に会わせろ、オーナーに会わせろ。』と要求していたが結局本社総務部の者が対応した。組合員らは、『とりあえず債権者との取引をやめろ。取引やめへんかったら、旗立てて阿倍野近鉄に押しかけたるぞ。』などと脅しをかけたため、応対した総務部の者が怖さのあまり『分かりました。それやったらお宅の要求をのみましょう。』と言った。」旨を聞いたと供述し、池田光蔵もこれを裏付ける供述をする(<書証番号略>)。しかし、その供述内容は藤本料理長からの伝聞に基づくものであるうえ、池田義夫は、藤本料理長から「レストラン部の水田部長から同年三月一八日に取引中止の業務連絡が来た。」とも聞いた旨述べていて、大阪魚国の内部では同年三月二六日以前に債権者との取引の中止を決定していたと認められ、また池田義夫は、当裁判所の審尋において、平成四年三月二六日、大阪魚国の総務部の者が福田委員長らに対し、「池田さんとの取引の停止は決定したから。」と言うと、福田委員長らは「はい、そうですか。」ということで帰ったように聞いているとも供述しており(<書証番号略>)、これらの事情を考慮すると、債務者の組合員らが三月二六日に大阪魚国の本店に押しかけて総務部の者を脅した旨の池田義夫や池田光蔵の右各供述はにわかに信用することができない。

四  永楽興業関係について

本件疎明資料(<書証番号略>)によると、福田委員長、小畑、大久保及び田中の四名は、平成四年七月一六日、大阪市中央区淡路町に所在する農林中金大阪支店に赴き、同支店長との面会を求めたところ、その面会の内容が債権者と食肉の取引をしている農林中金の関連会社である永楽興業に関するものであったため、永楽興業大阪支店に連絡され、農林中金大阪支店で永楽興業大阪支店下田健二次長と面談し、債務者作成の申入書(<書証番号略>)を交付したうえ、「大阪地労委は債権者が不当労働行為をしたと認定した。法律違反をしているから、永楽興業も社会的責任があるので指導して欲しい。他の金融機関も取引停止している。」などと申入れをしたことが認められる。

五  以上の認定事情によると、債務者の役員及び組合員は、大阪府地方労働委員会において、債権者が債務者の組合員に対して不当労働行為を行ったことが認定されて救済命令が発せられたのに、債権者がそれに従わず、相変わらず債権者と債務者との間の労使紛争が解決されないので、債権者の取引先や関連の金融機関に対し、債権者が行った不当労働行為の是正についての指導と取引停止の措置を申し入れ、労使紛争の解決を図ろうとしたものであるということができる。そして、そのような申入れをすれば、債権者が主張するように、取引先や関連の金融機関は、債権者と債務者との間の労使紛争に巻き込まれて自らの営業に支障の生ずることをおそれ、債権者との取引を停止することは十分考えられ、債務者においても、取引先が債権者との取引を停止することがありうると予想して申入れをしていたというべきである(なお債務者の役員や組合員は、取引先等に対し、不当労働行為の是正についての指導を行ったうえで、債権者の態度によっては取引停止の措置を検討するように申し入れ、直接的な表現で取引停止を求めていないが、債権者との取引を停止した取引先等に対しては、債権者に対する指導の有無を問わず、以後申入れをしていないことに照らし、債務者の申入れの目的のひとつが債権者との取引を停止させることにあったということができる。)。

もっとも、そのような取引先等に対する取引停止の申入れによって取引停止の結果が生じたとしても、取引停止を求めるすべての申入行為が違法になるものではなく、その申入行為が暴行脅迫或いは威力等を用いてなされれば違法なものとなるが、そのような実力を用いないで申入れがなされれば直ちに違法な行為ということはできない。そして、本件については、前記認定のとおり債務者の役員や組合員は、いずれも四名という比較的少数人数で、労働組合の団結を示すような腕章やゼッケン等も着用することなく、平穏に取引先や関連の金融機関を訪問しており、また申し入れた内容も、大阪府地方労働委員会において不当労働行為を行ったと認定された債権者に対し、その行為を是正するように指導し、それでも態度が改まらない場合には取引停止も検討して頂きたいというもので、その内容自体も不当なものではなく、さらにその申入れの態様も、通常の会話調で行われ、大声で脅すとか、或いは威圧を加えるといったものではなかったのである(なお前記認定のとおり、三和銀行信濃橋支店における平成四年二月二四日の申入れでは、債権者と三和銀行ないしみどりフードサービスとの取引が商取引であって、労使問題とは直接関係がないと主張する三和銀行に対し、福田委員長が執拗に両者の関連性を主張して債権者に対する指導と取引停止を求めているが、これも三和銀行に威圧を加えたというべきものではない。)。従って、右の事情を総合すると、債務者の役員や組合員が、債権者の取引先等に押しかけて労働組合の集団の威力を誇示したり、或いは取引を停止しなければ、取引先等に対して面談強要若しくは実力による業務妨害といった実力行使があり得ることを示唆して心理的圧迫を加えたということはできず、債権者の取引先等は、債務者の役員や組合員の申入れに対して意思決定の自由を阻害されることなく、取引停止を決定したというべきであるから、債務者の役員や組合員の申入行為が債権者の営業権を侵害する違法なものであったとは認められない。

なお債権者は、その従業員である債務者の組合員が労働契約上使用者である債権者の利益を配慮すべき誠実義務を負っているところ、取引先等に商品のボイコットを働きかける行為は誠実義務に違反すると主張する。確かに債権者の従業員である債務者の組合員は労働契約上債権者に対して誠実義務を負い、債権者の取引先に対し、正当な理由がなく取引停止を求めたり、或いは虚偽の内容を告げて取引停止を求めれば、誠実義務に違反することになるが、本件の場合、債務者の組合員は、大阪府地方労働委員会がなした救済命令を前提として、これを債権者に遵守させて長期化している労使紛争を解決しようと考え、取引先等に対して取引停止の申入れをしたものであって、労働者に保障された争議権の行使として正当な行為であるから、誠実義務に違反するということはできない。従って、債権者の右主張は採用しない。

六  そうすると、債権者の営業権に基づく本件仮処分命令申立てについては、被保全権利の疎明がなく、理由がないことになるので、右申立てを却下することとする。

大阪地方裁判所第一民事部

(裁判官大段亨)

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